みなさんは,難民調査官という仕事があるのをご存じでしょうか。
新しい生活を求め,多くの移民が国境を越えるという話はよく聞きますね。
ただ「難民」というのは僕も詳しくは知りませんでした。
目次
1. こんな方にオススメ
2. 作者の経歴
3. 登場人物
4. 本作品 3つのポイント
4.1 父娘の難民申請の食い違
4.2 なぜ難民申請却下を望む?
4.3 日本での難民申請の課題
5. この作品で学べたこと
● 移民と難民の違いは何かを知りたい
● 本作品で,難民申請した父娘は一体何者なのかを知りたい
● 世界の難民申請やその実情について詳しく知りたい
東京入国管理局の難民調査官・如月玲奈は、母国で政治的迫害を受けたと訴えるシリア人・ナディームを調査するが、13歳の彼の娘は、自分たちは故郷で平和に暮らしていたと主張する。なぜ、父娘で証言が食い違うのか? そして事態は、同じ頃に新宿で起きたシリア人夫妻の殺害・誘拐事件と奇妙な繋がりを見せていく。玲奈たちが見出す、悲しくも驚愕の「真実」とは。
-Booksデータベースより-
「移民」とは,新しい生活を求めて他国へ移住しようとする人々,「難民」とは,自国で迫害を受け,身の危険を避けるために移住を余儀なくされる人々のことをいいます。
難民捜査官というのは法務省管轄で,現在日本には年間約10,000人もの海外の人々が難民申請し,その中で申請が通るのは7%と言われています。
たった7%という数字に驚きました。かなり厳しいものなんですね。
申請が多いのは東南アジア,中東といった国々だそうです。
シリアで迫害を受け,命からがら日本へ逃げてきた父娘が難民申請をします。
如月玲奈・・難民調査官で今回の主人公。ある父娘を調査する
ナディーム・・・娘とともに難民申請。日本での殺人事件に関わる
ラウア・・・ナディームとともに日本へ入国。一体何者なのかがポイント
バスマ・・・何者かに殺害される。なぜ日本にやってきたのか。。。
その二人に「難民調査官」である如月という女性が対応するんですが,そのことが引き金となり,多くの事件につながっていくという話です。
1⃣ 父娘の難民申請の食い違い
2⃣ なぜ難民申請却下を望む?
3⃣ 日本での難民申請の課題
新宿でシリア人のバスマが何者かに殺害されたところから話は始まります。
その事件について,同じシリア人のナディームという男へのヒアリングが行われます。
ナディームは自国で迫害されたとして娘であるラウアと共に難民申請してました。
この難民申請に対する対応を主人公である如月が担当します。
ナディームは,シリアで迫害されていたから日本にきた言っていましたした。
しかし,娘であるラウアにヒアリングしたところ「自国で迫害はされていない。幸せに暮らしていた」と言われてしまいます。
ん? なぜこの二人の意見が食い違うのか?
その理由は読んでいくと判明していくのですが,この難民申請には実は裏がありました。
一体彼らは何者なのか,なぜ難民申請をしたのか,というところが話のポイントになります。
話が進むと意外な事実が判明していきます!
※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!
👈クリックするとネタバレ表示
ラウアはナディームとともに日本へ渡ってきたわけですが,本当は彼の娘ではなくバスマの妻であることが判明しました。
バスマはシリアでテロを起こしていた組織の首謀者であって,ナディームの家族をも殺害していたのです。
バスマと妻であるラウアは日本へ逃げ込み,怒りのナディームはバスマを見つけ出し,新宿で殺害したわけです。
復讐が復讐を生み,絶えず続く闘争終わらせるということは難しいのでしょうか。
他国に逃げ込むという理由には,自国の状況が悪化しているという以外にもあるんですね。
ただ,ナディームの心情だけを見れば同情の気持ちもわきますが,別の視点から見るとそうではないものが見えてくるものがあります。
ラウアの心情はどうだったのかということです。
ラウアは,バスマの妻でありながらも実際にはバスクの奴隷にされ,半ば強引に日本へ連れてこられたのでした。
ナディームは復讐とともにラウアを救ったのです。
しかし,ラウアはここで大胆にも偽りの嘘をついていたわけです。
自分は迫害など受けてなかったと。この理由がわかりませんでした。
やっとの思いで日本へ辿り着き静かに暮らしていたのに,なぜナディームの難民申請を却下するように仕向けたのか。
それは,ナディームを思ってのことでした。
殺人を犯したナディームはこのままだと犯人として逮捕されてしまう。
それであれば,難民申請を却下させ,自国に強制送還させれば逮捕されないというラウアの思いやりだったのです。
いや,これは本当に思いやりなのか?
この事実を知った如月は,ナディームの申請を受け入れるとともに,刑事罰も受けさせ,ナディームに罪を償わせる選択をしたのです。
よくよく考えれば,ナディームは罪を犯しているわけですから。
確かに日本で犯罪を犯し,ナディームを救いたいというラウアの気持ちもわかるような気はします。
日本で起こったことは日本で裁かれるべきであるという如月の判断は間違いではないのかなと思います。
自国で迫害を受けている人々だけが申請をすると思っていたんですが,それ以外にもいろいろな理由で申請する人々もいるのだなと思います。
価値観や考え方の違う異国の人々を裁くというのは確かに難しい部分もあるかと思います。
しかし,如月自身が下した決断には感心しました。
難民申請を管理しているのは正式には「出入国在留管理庁」と呼ばれるところです。
主要都市には「出入国在留管理局」というものがあり,そこで如月のような「難民調査官」が申請内容をチェックし,在留資格を管理していいくわけです。
世界で難民と呼ばれる人の数は7000万人と言われています。
しかし,実際に申請まで行きつくのは400万人で,残りの人々は何らかの原因で申請できない状況であることがわかります。
一番受け入れの多い国は「トルコ」で約400万人,そのうちシリアからの受け入れが300万人であるとのことです。
これは地理的な状況と国民性によるものなのかなと思います。
続いてパキスタン,ウガンダ,スーダンといった難民に寛容な国による受け入れが多いようです。
しかし,これらの国では受け入れたものの,「難民キャンプ」で人が溢れかえり,満足のいく食事もできず貧困は続き,結局は自国へ強制送還されている現状でもあるそうです。
先進国で言えば,ドイツが有名でしょうか。
2016年には30万人近い難民を受け入れています。
それ以外でもアメリカは2万人,イギリスも1万5000人と続きます。
ただ,考えなければならないこともあります。
受け入れるということは,衣食住を確保できる環境を作らないといけないですし,その分,国の税金も投入されるわけです。
闇雲に受け入れてしまえば,ドイツや他国のように国民から批判があがることもあります。
日本での難民申請者数は一万人を超えていますが,実際に許可が出ているのは2016年で28人,2017年で20人,2018年で42人と,かなり少ない人数となっています。
なぜ同じ先進国でも受け入れに差があるのでしょうか。
そこには国によっての許可条件の違い,そして地理的な要因があると思われます。
そもそも難民とは先ほど書いたように「自国にいると迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れる人々」なのですが,その考え方が国によっての違いはあると思います。
迫害を受けていないのに難民申請をする人も多く,難民自体の定義があいまいになってしまっている部分があるようです。
さらに日本の場合は,就労目的の移民を厳正にチェックするということになっています。
またヨーロッパなどと異なり,島国である日本には容易に物理的移動が難しいという大きな要因もあるのかもしれません。
また,海外からきた外国人が問題を起こすというイメージも問題としてあるのかなとも思います。
やはり巨額の税金を使っているという国民の不満はあるようで,全ての人々が受け入れることに賛成かというとそうではないようです。
難民申請を許可した後も,仕事に就き,自立した生活を送れるような基盤がなければ盗難や犯罪が起きてしまい,結局はまた問題が起こってしまうのでしょう。
そういう意味でも日本が受け入れに慎重な姿勢であることはわかるような気がしますし,今後も改善していくにはどうすればよいかを考える必要があるのかなとも思います。
● 自国で迫害を受けている人だけでなく,さまざまな理由で必死で難民申請をする人が世界中にはたくさんいる
● 難民申請をする理由に犯罪が関わっていることをしっかりと見抜く「難民申請官」の存在が必要である
● 世界中には多くの人々が難民申請するが,受け入れた国々にも負担は大きい
多くの問題をクリアしながら,本当に苦しんでいる人にはできるだけ受け入れる環境を作っていかなければならないなと考えさせられる作品でした。