2008年に発刊された原田マハ先生の作品。2021年に映画化もされています。
この映画を観ていませんが,ネットで簡単なあらすじを見るとちょっと違和感を感じました。特にラストの方は小説と映画ではストーリーが異なるようです。どちらがよいのかはわかりませんが,今回小説を読んでみて思ったのは,とても感動する作品だなということです。
僕自身は小説を読んでこのブログを書いて,少しだけ考えたことを述べたりしています。本作品では,主人公が幼い頃から映画が好きでずっと見続け,それに対して批評しているというところにある種の共通点を感じ取ることができました。
小説で映画の原作を読むことがほとんどで,映画を観ることはあまりありませんが,映画には映画の良さがあって,それを趣味にしている人も多いのだと思います。
「キネマ」というのは「シネマ」のことなんですね。では,キネマの神様とは何を意味する者なのか。
興味がある方は是非読んでみてください!
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 ブログ『キネマの神様』
3.2 宿敵ローズ・バッドの登場
3.3 ゴウとローズ・バッドは会えるのか
4. この作品で学べたこと
● 映画が大好きな方
● 映画の良さを改めて知りたい方
● 『キネマの神様』とは何なのかを知りたい
無職の娘とダメな父。ふたりに奇跡が舞い降りた! 39歳独身の歩(あゆみ)は突然会社を辞めるが、折しも趣味は映画とギャンブルという父が倒れ、多額の借金が発覚した。ある日、父が雑誌「映友」に歩の文章を投稿したのをきっかけに、歩は編集部に採用され、ひょんなことから父の映画ブログをスタートさせることに。“映画の神様”が壊れかけた家族を救う、切なくも心温まる奇跡の物語。第8回酒飲み書店員大賞受賞作!
-Booksデータベースより-
円山郷直・・・主人公で通称ゴウ。映画とギャンブルが大好きな79歳
円山歩・・・・ゴウの娘。課長を務めていたが,退職する
円山淑子・・・ゴウの妻。
寺林新太郎・・通称テラシン。「テアトル銀幕」のオーナー
柳沢清音・・・歩のかつての部下
高峰好子・・・映友社の編集長
高峰興太・・・好子の息子。通称「ばるたん」で,ひきこもり
1⃣ ブログ『キネマの神様』
2⃣ 宿敵ローズ・バッドの登場
3⃣ ゴウとローズ・バッドは会えるのか
東京総合株式会社の課長に昇進した円山歩。彼女はその直後から,社内からの嫌がらせに遭います。どこの組織にも,自分の気にくわない人物が昇進するとそれを妬み,足を引っ張る人間っているんですね。
この状況がイヤになったのか、とうとう歩は会社を辞めてしまうんです。それを両親にも言えないでいました。退職を告げたちょうどその日,さらに悪夢が襲います。歩の父親である郷直,通称ゴウが心筋梗塞で入院してしまうのです。幸い「胸がチクチクする」という軽いもので助かったのですが。。。
ゴウは麻雀などのギャンブルが大好きでしたが,同じくらい好きなものが映画でした。一度観た映画は細かいところまでハッキリと覚えているくらい。
彼は「テアトル銀幕」という映画館で何が上映されているかを知ると,すぐに観に行くのです。ここの支配人である寺林新太郎,通称テラシンが選ぶ映画は最高だと言うゴウ。
ゴウの妻には悩みがありました。何とゴウが消費者金融から借金をしていたようなんですね。ギャンブルのために。それを返さないといけないが,金額は歩がもらった退職金300万円とほぼ同額。本当に困ったおやじです。
そんなゴウを見舞いにきたテラシンが歩に言うのです。
「また,映画を観に映画館に来てください。『キネマの神様』も祈っているよ」と伝えます。最初,キネマって何のことだろうって思ってましたけど,映画のことだったんですね。
キネマとは
第二次世界大戦前の日本では、映画のことを「活動写真」あるいは「活動」と呼ぶのが一般的であったが、次第に「キネマ」「シネマ」とも呼ばれるようになった。
しかし、大正時代の当時「シネマ」は「死ね」に通じる忌み言葉として嫌われたため「キネマ」が定着した。昭和になった頃から「シネマ」という言葉も使われるようになった。
-雑学ネタ帳サイトより-
なるほど,そういう経緯があったのかぁ。最近は映画のことを「キネマ」と言う人は全くいなくなったということなんでしょうか。。歩は約束通り,テアトル銀幕で何をやっているかを確かめにいきます。
ニュー・シネマ・パラダイス/ライフ・イズ・ビューティブル
イタリアの感動名画 豪華二本立て
この映画も観たことありませんが、ゴウから言わせれば最高の映画なのでしょう。
ところで、歩は退職し、何の仕事にも就かないままでしたが、あるきっかけで「映友社」という企業に入社することになります。これ、歩が自分で志望したわけではないんですよね。実はゴウが歩の映画評論をこの映友社へ送ったらしいのです。そこの社員が読んで「とても感激した」と言ってきたんです。ゴウは何を思って送ったのか。ま、とにかく歩は転職に成功するわけです。
映友社は確かに老舗の出版社で『映友』という雑誌を刊行している企業なんですけど、経営は赤字続きで、企業の存続も危ぶまれていました。映友社の編集長で取締役の高峰好子も必死です。ということは、歩がこの企業を立て直すのか、と想像してしまいます。
歩は好子からあるお願いをされます。実は好子の息子である興太は「ひきこもり」だったんです。パソコンとかネットワーク、セキュリティにはとても詳しいみたいなんですけど、人と接するのがとても苦手。
しかし「あること」を境に,この悪い状況の脱却へ向け,動き出すのです。
興太はある記事を歩に見せます。それはSNSにアップされた映画に関する批評を書いた記事。その記事がとてもきれいで鮮やかな内容の文章だったんです。実はこの評論を書いたのが「ゴウ」、つまり歩の父親だったんですね。
密かにパソコンまで使えるようになっている父親に驚く歩。編集長の好子はこの記事をブログにすることを思いつきます。
さらにこのブログを英語版にて他の国の人々も読めるようにしようと考えます。その翻訳を担当したのが、歩のかつての部下だった柳沢清音でした。彼女はどうやらアメリカに渡っていたみたいなんです。
幼いころから映画に夢中だった一人の人間の想いが、多くの人の助けによって世界中の人々に知ってもらえる。何か夢を叶えるってことは、いろいろな人の支えがあってできるものなんだろうなって思います。
ところがここで思いもよらない敵が現れます。それはゴウの書いたブログの内容を否定するものでした。それはかの有名な映画「フィールド・オブ・ドリームス」へ向けて書いたゴウの評論に対するもの。
親愛なるゴウ
どうやら君たち日本人は,我々アメリカ人の心の奥深くに柔らかく生えているもっとも敏感で繊細な「父性への憧れ」という綿毛を逆撫でするのが趣味らしい
ゴウの記事に対し,こんな書き込みがされます。その書き込み主の名は「ローズ・バッド」といいました。フィールド・オブ・ドリームス,名前は知ってますが,話のあらすじは知りませんでした。
フィールド・オブ・ドリームスとは
野球愛と親子愛をファンタジックなタッチで描いた名作。
アイオワで農場を持つレイは、ある日トウモロコシ畑で「それを作れば、彼は来る」という声を聞く。
レイはその声に従い、トウモロコシ畑を潰し野球場を作ろうと決意。周囲から変わり者扱いされるが家族に後押しされ、野球場を完成させる。
そしてある夜、野球場で1人の男を目撃する。それは、不仲のうちに死去した父が大ファンだった、大リーグの名選手ジョー・ジャクソンだった。
-洋画専門チャンネル ザ・シネマより-
ゴウはこの映画のテーマは「亡き父と息子の和解」と書いたんですけど,ローズ・バッドは「和解できなかった父と息子の現実」と言うのです。なるほど。ゴウの評論も的を射ている素晴らしいものなんだけど、このローズ・バッドの映画に対する考え方はゴウのはるか上を行っているような気がします。
アメリカ人にしかわからない繊細なる「父性」というものをうまく描いたものなのかもしれません。おそるべし、ローズバッド。。。これで映友社の繁栄も水の泡なのか。。。
しかしそれは思い違いでした。ゴウ vs ローズ・バッドの応酬は日本でも、いや世界でも話題になるのです。ブログのアクセス数が数百万PV(ページビュー)と飛躍的に伸びます。
さらには大手の企業からの広告依頼が舞い込み、映友社の経営は劇的に回復する予感です。
しかし同時にショッキングな出来事がゴウを襲います。
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そんな時、ゴウにとってショックな出来事が。。。あのテラシンが経営する『テアトル銀幕』が閉幕するというのです。これまで何度も何度も足を運んできたゴウ。相当なショックです。
テラシンはやはり「シネコン」の台頭が一番の原因だと言います。少しずつ客足も遠のいていったのも原因のようです。時代はどんどん変わっていきますよね。映画館へわざわざ行かなくても,レンタルビデオで観れる時代もありましたが,現在はドラマや映画がネットのサブスクで観れる時代になってしまいましたもんね。
しかし,何とかテアトル銀幕を存続させる方法はないのか。ゴウは最後の頼みと考え、あの「ローズ・バッド」に相談するのです。
親愛なるローズ・バッド
(中略)
その「テアトル銀幕」が,存続の危機に立たされているのです。
理由はいくつかあります。DVDの普及,そして三年後に近所にシネマ・コンプレックスができること。
わずか50席の小さな名画座は,シネコンの前にあっては消えていく以外ないのです。
ゴウはライバルとして、というよりは一人の「友」としてローズ・バッドを頼ろうというのです。その書き込みが大きな反響を呼びます。テアトル銀幕を存続させ、大手会社が計画している「シネコン」へのバッシングが発生するのです。
これが追い風と思いきや、また問題が。このシネコンを作ろうとしている大手会社こそ、映友社への広告を出すと言っていた企業だったのです。
ゴウはローズ・バッドの反応を待ちます。しかし,ローズ・バッドへの助けを求めてからかなりの時間が経っていました。もう返信はないのか。。。返信が来ないと諦めかけていた時、ようやく動きがありました。
このローズ・バッドがアメリカの生放送番組で姿を見せたのです。その人物はゴウが、いや世界中の人々が知っている超有名人でした。なんとローズ・バッドの正体、それは伝説の映画評論家『リチャード・キャバネル』だったのです。これには世界中が騒然とします。
「すげえ。キャバネルが,ほんとにローズ・バッドなんだ」
キャバネルはテアトル銀幕の存在意義を述べます。その一方でシネコンの良さも示し、両方の映画館が共存すべきだと訴えた。
これに対し,ゴウは「親愛なるローズ・バッドへ」と感謝の書き込みをします。「友よ,本当に,ほんとうに,ありがとう」と。こうして世論のシネコン設立批判は下火となり、テアトル銀幕は存続、シネコンは無事設立という流れができた。映友社としても危機を乗り越えたのです。ゴウのブログ『キネマの神様』が映画界に大きな影響力を与えたと言っても過言ではないです。
しかししばらくすると,またローズ・バッドからの書き込みが途絶えます。今度は二ヶ月も。ローズ・バッドは映画館の良さを書き込んで満足したのか,それとも彼の身に何かあったのか。心配になったゴウは書き込みます。
「貴君は元気だろうか? 何か困っていないだろうか?」と。
そしてとうとうローズ・バッドからの書き込みがありました。しかしそれは意外なものでした。
親愛なるゴウ
長いこと,返信しなかったことを許してほしい。
私はいま,ニューヨーク市内の病院にいる。どうやら,ここが私の終焉の場所になるようだ。
悪い予感は当たってしまいました。ローズ・バッドはやはり病気になっていたのです。しかも癌に侵されていて,やけくそになったということも書かれていました。そしてそこには彼の最後のお願いが書かれていました。
「ゴウ,会いにきてくれないか」
これを読んだゴウは急遽,アメリカへ渡ることにします。ようやくあの「ローズ・バッドと会える」と意気込んで,関係者と快気祈願パーティーをしていた時でした。思わぬ悲報が。。。
「。。。ローズバッドが。。。今日,未明に。。。天国に召されました。。。」
ゴウは,亡くなる直前に打ったと思われるローズ・バッドからのメッセージを読みます。そこには,ローズ・バッドの孤独な人生,その中でゴウという存在を知ったこと,ゴウの単純でありながらも等身大の人間が投影される書き込みに夢中になっていたことなどが書かれていました。
そして「ゴウに出会えてよかった」とも。ゴウはローズ・バッドと一緒に映画を観ることが夢だったようです。途方もない悲しみに暮れるのでした。ゴウは後日,テアトル銀幕で映画を観ます。
なあ,観てるか? ローズ・バッド。俺たちの一番好きな映画。いま,はじまったぞ
昔は本を読む習慣がなかった,というか読書自体があまり好きではなかったので,よく映画を観ていたような気がします。家で観たりもしましたが,親に映画館へ連れていてもらったりしたのはとても良い思い出です。
でもここ10年近く,小説にハマり出してからは映画も,ドラマも観なくなってしまいました。原作を読んでしまうと,どうしても映像化された作品を観ようという気持ちが起きなくなってしまったんですね。
頭の中で映像をイメージして読んでいるので,そのイメージを大切にしたいなというのがあるのだと思います。でも本作品で,主人公が最後に映画館で観た映画は観てみたい気がします。
これ,何の映画だろうかと気になってネットで調べたら,作中にも登場したものでした。映画は観ないと言いましたが,この作品だけは観ようと思っています。
主人公と有名な映画評論家が推す映画とは何か。
ちなみに,映画『キネマの神様』の記事をネットのサイトで読んだんですけど,この小説版とは話の内容とか,誰にスポットを当てているのか,というのが異なるようです。それはそれで興味がありますが,僕自身はこの小説版の話が大好きです。
ま,とにかく,いろいろなことを考えさせられる作品だったので,是非読んでみてください。
● 映画館で観る映画の良さというものがある
● 映画の評論と,自分自身のブログの共通点について
● 人はそれぞれ,一つのことに対する考え方や価値観が異なるということ