2014年に発刊された本作品。作者の七月隆文先生はライトノベル作家なんですね。ライトノベル自体をあまり読まないので,七月先生のことも初めて知りました。
あれ,経歴を見ると「ときめきメモリアル」のゲームシナリオをノベライズした、って書いてあるぞ。実は、コナミが出した恋愛シミュレーションゲームをノベライズされた方だったんですね。
話は戻って本作品,2016年に映画化されているようです。福士蒼汰さん,小松菜奈さんが出演された映画。ご覧になった方は多いんでしょうね。本作品は「160万部」のベストセラーになってますから。
話は恋愛モノですが,本当に読みやすい。数時間で読んでしまいました。そして最後は感動で号泣。
読んだことない方は是非読んでほしい一冊です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 主人公の一目ぼれ
3.2 愛美の違和感ある行動
3.3 愛美が隠していたこと
4. この作品で学べたこと
● 本作品のタイトルの意味を知りたい
● 主人公と,彼が一目ぼれした女性との恋の行方を知りたい
京都の美大生・南山高寿は、大学へ行く電車の中で福寿愛美に出会い、一瞬で恋をする。勇気を出した高寿が愛美に声をかけると、ある一言に反応して泣き出す愛美。やがて2人はつき合い始めるが、愛美は大きな秘密を抱えていた。
-Booksデータベースより-
1⃣ 主人公の一目ぼれ
2⃣ 愛美の違和感ある行動
3⃣ 愛美が隠していたこと
「一目ぼれをした」この一節で始まる本作品。主人公は木野美大に通う南山高寿(たかとし)で,彼の視点で話は進みます。京阪の丹波橋駅で,一人の女性が電車に乗り込み,高寿の前の吊革を握ります。
「綺麗な瞳だな。。。」絶世の美女とは言わないが,和風の顔立ちで清楚な感じが完全に高寿のタイプのようです。まさに一目ぼれ。この二度と来ないかもしれないチャンスに高寿は迷います。京都市北部を走る叡山電鉄に乗り換えた二人。高寿の心はバクバクしています。
「宝ヶ池,宝ヶ池」というアナウンスと同時に彼女が動き出し,駅を降ります。慌てる高寿。そして彼は彼女の後を追います。そしてとうとう呼び止めるのです。
「あのっ」「電車の中でみて。。」そして「一目ぼれしました!」
うわぁ,言ってしまった。ある意味すごい勇気。
彼女は「宝ヶ池」へ行こうとしている様子。それを聞いて,高寿も行こうとします。
「ぼくも一緒に行っていいですか」すると「はい」という返事が。
これが二人の出会いでした。彼女の名前は福寿愛美(えみ)と言います。美容師の専門学校に通っているようです。
高寿のドキドキ感がとてもよく伝わってきます。逆に愛美は一風大人びた感じがするんですよね。
「どうしてわたしに。。。その。。。どこが。。。」
愛美としては,なぜ自分のことを好きになったのかという疑問がありますよね。
「わからない,本能だと思う」
確かに,一目ぼれってこんな感覚なんじゃないかなって思います。しばらく談笑していた二人ですが,愛美は帰る時間が迫っていたようです。
「用事?」「また会える?」高寿はもう二度と会えないのではないかと不安な様子です。すると突然彼女が泣き出します。なぜ泣き出したのか。誰か他に付き合っている人がいるのだろうか。複雑な気持ちの高寿は愛美の後姿を見送るのでした。
高寿には夢がありました。「将来はイラストレーターになりたい」という夢。やっぱり、こうやって夢を実現するためには、しっかり学校選びをしないといけないな、って読みながら思ってしまいました。
さらに高寿は、密かに「小説」も描いているようなんです。何という行動力。本当に感心します。僕自身も考えたことはあるけど,実際に行動に移したことはない。夢を実現する人って,こういう人なんだろうなって思います。
ある日,高寿はデートに誘います。場所は河原町通り。高寿は念入りに周辺の下見します。うわぁ,ホントに青春してるなぁ。
京阪の三条駅で待ち合わせをし,待ちに待ったデートが始まります。扇子屋に行ったり,ピザ屋で美味しいピザを一緒に食べたり,スタバに寄ったり。お互いのことを話しながらどんどん親密になっていく二人。
そんな時,突然愛美が意外なことを話します。
「わたし,ずっとあなたのこと見てたんだよ」
えっ,これって,最初から両想いだったってこと? でも「ずっと」という言葉に違和感を感じます。
一体、これはどういうことなのだろうか。
ここで話は高寿が10歳の頃に戻ります。高寿はある「大人の女性」に出会います。どうやら高寿は5歳の頃,大地震に巻き込まれたようです。
それを助けたのがこの女性だったようなんです。幼い高寿のことを知っている女性。彼女はある茶色い箱を渡します。
なくさないで持っててね。開けちゃだめだよ
次に会った時に一緒に開けよう
一体,何が入っているんだろう。そして再び現在の視点に戻ります。
高寿は実家の近くに引っ越ししました。引っ越しで散らかっている部屋を見られたくないのか,愛美とは会えないと思ってるようです。しかし愛美は積極的。「引っ越し手伝うよ。それで今日会えなかったんだよ」
大人びている感じの愛美がこんな言葉を発するなんて,ちょっと意外です。愛美は毎日会うことが高寿の負担になってないか気にしているようです。
引っ越しの手伝いをしている時,陶器屋へ行くことにします。そこで高寿が描いている小説の話になります。
陶器屋の店主が「ゆうこ」と呼ぶのです。他の店員の名前でしょうか。その瞬間,愛美は「偶然だね」って言うんです。そして「はっ」とするのです。
確かに高寿の小説には「ゆうこ」という女性が登場します。しかし,なぜそれを知っているのか。これには大きな違和感を感じました。愛美は何とか誤魔化したようだけど,う~ん,やっぱり何かあるぞ。高寿は伸びた髪を愛美に切ってもらうことになりました。愛美は美容学校生ですからね。うまく切れているんですけど,何か愛美はじんわり来るものがあるようです。
「また泣きそうになってない?」高寿は心配します。
そして料理も作ってくれることになったり,その度に泣きそうになったり。花粉のせいだと誤魔化してましたけど。いやいや,やっぱり愛美には何か秘密があるぞ。
12時という門限がある愛美は,高寿の家を後にします。高寿はふと「手帳」を見つけます。そこにはこう書いてありました。
5月23日
1日目。彼にとっては最後の日。宝ヶ池で写真を撮ってもらう
5月22日
彼と枚方へ行く。彼の両親に会う
5月21日
丹波橋のアパートで一日一緒に過ごす★
5月20日
西内君のマンションで飲み会
これ,実際にあったことが書かれているので,日記かと思いました。でも日付が新しい方から古い順番になっていて,時系列が全く逆なんですよね。
高寿もこの意味を考えています。このメモは一体何を意味するのか。その時,愛美から高寿に電話がかかってきます。
メモ帳はもう見たよね? 意味わかんなかったでしょ
隠してたこと,全部話すね
果たして,愛美は高寿に何を隠していたのでしょうか。
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わたしは隣の世界の住人で,そこからきているの
衝撃の事実を告げられた高寿。イマイチ理解が付いて行ってない様子。これってパラレルワールド?
愛美には門限があると思われてましたが,実はそうではありませんでした。実は、高寿の世界の時間の流れと,愛美の世界の時間の流れは全く逆方向に進んでいるのです。そして0時になるとその二つが同期を取るように一日がリセットされる。つまり,0時になると,愛美は高寿のいる世界の中に用意されている自分の居場所に戻る。
その瞬間,愛美は消えたようになるわけです。実際に0時の瞬間,愛美は消えてしまいました。5月23日から始まっていた愛美のメモ書き。それは時間を遡っているからそうなっていたのです。そして、最後は4月13日までになっています。
これが愛美の時間の流れであり、最大の謎でした。高寿にとって初めて会った日が4月13日ならば,愛美と一緒にいれるのは5月23日ということ。
そして愛美はさらに衝撃の事実を告げます。「隣の世界からこれるのは5年に一度,たった40日間のみ」と言うのです。つまり,二人がちょうど20歳になるこの時が「運命の日」というわけだったのです。
ということは,まさか。そう,15年前の震災から高寿を助け出した女性。彼女こそが愛美だったのです。しかも15年後の愛美。
高寿は大事にしていた茶色の箱を開けます。そこにはまだ写していないはずの高寿と愛美の写真がありました。逆に,愛美が10歳の頃,祭りの屋台が爆発して愛美を助けた男性がいました。
それが30歳の高寿でした。お互いが幼い頃,それぞれの未来を知っているわけです。なるほど、そういうことだったのか。。。
それを知った高寿は混乱していました。そして同時に怒りも感じていました。高寿が愛美と昨日一緒に過ごしたことを,愛美は現時点では知らないということになります。
いろいろなことが頭をよぎったのでしょう。「もう。。。やってられないんだよ!」と言ってしまいます。高寿の気持ちはわかるなぁ。一生懸命愛美のためにデートの予定を考えたりしていたのに,それを愛美は知らない。別の言い方をすれば,高寿に気づかれずに「何も知らないふりをして会っていた」ということですから。
だから「ぼくは明日,昨日のきみとデートする」というタイトルなんですね。納得です。
高寿はこれまでのことを振り返ります。これまで何度も違和感を感じたこと。一緒にいろいろな話をしたこと。読者の視点で言えば「伏線回収」というところでしょうか。
しかし高寿はこれを乗り越えます。いいじゃないか,自分は愛美のことを好きな気持ちは変わらないのだから。辛いのは高寿だけではない。愛美も一緒なんですよね。
時間的に逆方向に進みながらも,愛美は高寿のことを考え,メモ帳まで作って会っていたんですから。思いやり以外のなにものでもないです。そして最後の一日。高寿は大切に過ごします。最後に一言。
「ぼくはきみを愛してる」そう言った瞬間、0時になり,愛美は消えてしまうのでした。
そしてエピローグへ。2010年4月13日。愛美にとって高寿と会う最後の日。
彼にいつも送ってもらった駅までの道のりを,何度も通った駅の改札
一番後ろの車両,二番目のドア。40日間お世話になったシステム手帳をしまう。
そして。。。高寿。。。彼のもとに辿り着いた
突然やってきた愛美と,彼女に一目ぼれした高寿の交わる瞬間を思い出しながら,号泣してしまいました。初めて会った人に一目ぼれする瞬間というのは,普通であれば「偶然」なのかもしれないけど,本作品の話は「必然」だったんですね。
愛美にとってはこのまま何も言わずにいた方がいいと考えたこともあったかもしれないと想像します。でも,大好きな高寿には嘘は付けなかったんでしょうね。
時間って,無限にあるわけではない。大切な誰かといつかは会えなくなる。それがいかに貴重な時間であるかということを本当に考えさせられました。
この話を考え出した七月先生の構成力に驚かされました。
● 主人公と女性の二人の出会いは偶然ではなかったこと
● 作者の構成力に驚かされました
● 限りある貴重な時間を大切にしたい