インターネットでアガサ・クリスティーの作品の評価を見てみると,一番多いのがこの「そして誰もいなくなった」のような気がします。
1939年という戦前に描かれた作品が今でも多くの人々に読まれていることに驚きますし,世界で累計一億冊以上も出版されています。
同作家の作品の中では,有名な「オリエント急行の殺人」などは聞いたことありましたし,かつては日本版として三谷幸喜さんが豪華キャストで映画化したこともありました。
しかし,ツイッターとかを見ていると本作品を推している方が本当に多いことに気づきます。
実際に読んで思ったのは,確かに面白い!
「誰もいなくなった」とはどういうことなのか,本作品を読んでみるとそのアイデアのすごさに驚嘆させられます。
綾辻行人先生が描かれた「十角館の殺人」は,本作品の設定ととても似ているようにも思います。
絶海の孤島「兵隊島」を買い取って,島の館で多くの人間が殺害されるという辺りは特に似ているように思います。
真犯人は誰なのか,誰もいなくなるという真の意味などなど,本当に楽しめる作品です。
目 次
1. こんな方にオススメ
2. 登場人物
3. 本作品 3つのポイント
3.1 兵隊島への招待状
3.2 次々と殺害される人々
3.3 そして誰もいなくなった
4. この作品で学べたこと
● 「そして誰もいなくなった」とはどういうことなのかを知りたい
● 「十角館の殺人」を読んだことがある方
● 今から約80年以上も前に描かれた超大作を読んでみたい
その孤島に招き寄せられたのは、たがいに面識もない、職業や年齢もさまざまな十人の男女だった。だが、招待主の姿は島にはなく、やがて夕食の席上、彼らの過去の犯罪を暴き立てる謎の声が響く…そして無気味な童謡の歌詞通りに、彼らが一人ずつ殺されてゆく!強烈なサスペンスに彩られた最高傑作。
-Booksデータベースより-
オーエン夫妻・・・兵隊島に招待したとされる夫妻
ロジャース夫妻・・兵隊島の建物の召使
マッカーサー・・・退役した老将軍
マーストン・・・・遊び好きな生意気な青年
ブレント・・・・・老婦人
ヴォーグレイヴ・・有名な元判事
アームストロング・有名な医師
ブロア・・・・・・元警部
ロンバード・・・・元陸軍大尉
クレイソーン・・・若い女性教師
1⃣ 兵隊島への招待状
2⃣ 次々と殺害される人々
3⃣ そして誰もいなくなった
本作品では多くの人物が登場します。それぞれに「兵隊島」という島への招待状が届くのです。差出人はオーエンという人物です。ただこのオーエンという人物が謎なんですよね。いつ登場するのかと待ちながらなかなか登場しない。
兵隊島にいたのはロジャースという老夫婦でした。オーエンから言われてこの島にある邸宅の世話係です。しかもこの二人,雇われてまだ一週間しか経っていないというのです。
全員,お互いを警戒し合い,半信半疑のままこの邸宅に泊まることになるのです。もうあからさまに嫌な予感がしますよね。
彼らは各部屋に割り当てられますが,そこには驚くべきことが書かれた額縁がありました。
<十人の小さな兵隊さん>
● 小さな兵隊さんが10人,食事に行ったら1人が喉につまらせて,残り9人
● 小さな兵隊さんが9人,寝坊をしてしまって1人が出遅れて,残り8人
● 小さな兵隊さんが8人,デボンへ旅行したら1人が残ると言い出して,残り7人
● 小さな兵隊さんが7人,薪割りしたら1人が自分を割ってしまって,残り6人
● 小さな兵隊さんが6人,丘で遊んでたら1人が蜂に刺されて,残り5人
● 小さな兵隊さんが5人,大法官府に行ったら1人が裁判官を目指すと言って,残り4人
● 小さな兵隊さんが4人,海に行ったら燻製ニシンに食べられて,残り3人
● 小さな兵隊さんが3人,動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて,残り2人
● 小さな兵隊さんが2人,日向ぼっこしてたら日に焼かれて,残り1人
● 小さな兵隊さんが1人,1人になってしまって首を吊る,そして誰もいなくなった
「今からこれになぞらえた殺人が行われますよ」と言っているようなもんですよね。
取り乱す者もいれば,堂々と振る舞う者もいて,誰があやしいか,お互い疑心暗鬼になっているようです。
全員が食事を摂る部屋に案内されます。そこには十体の人形が置かれていました。いかにも何か起こりそうな感じです。
「ウォーグレイブ(判事)は,無罪になるはずの男を,陪審員を手玉に取り『有罪』にしてしまった」
「ヴェラは,家庭教師をしていた子供が海で泳ぎたいと言い,沖に流されていくのを助けずに溺れさせてしまった」
「ロンバードは,アフリカのある部族を置き去りにして,餓死させてしまった」
「エミリーは,自分の夫が浮気をしてテイラーという女性を妊娠させたことを責め続け,テイラーを自殺においやった」
「マッカーサー(将軍)は,自分の妻がアーサーという部下が恋仲になってしまい,アーサーを死の地に送ることで亡き者にした」
「アームストロング(医師)は,自分の患者を医療ミスで死なせてしまった」
「マーストンは,車で少年たちを轢き殺してしまった」
「ブロアは,ランドーという銀行犯に有罪を着せ,刑務所内で死なせてしまった」
「ロジャース夫妻は,かつて老婦人の執事をしていたが,体が弱く,助けを呼ぶことなく死なせてしまった」
このように,全員が何かしらの罪を犯したことを告発するものでした。
実はこの声は,レコードから発せられたものでした。何者かがこのレコードを録音し,みんなに聞こえるようにしたのです。レコードをかけたのはロジャースでした。どうやら彼は「このレコードをかけるように」言われていたようです。
全員がロジャースを怪しみますが,かつて罪を犯した十人全員とも怪しいですよね。
全員が恐怖を感じ,明日やってくるはずの船に乗って帰ることを提案します。
しかし,マーストンだけは違いました。受けてたとうじゃないかというような感じです。
そしてマーストンが卓上にあったウィスキーを飲んだ瞬間でした。マーストンは急に苦しみ,喉を押さえながら亡くなってしまうのです。これが殺人の始まりでした。さらに恐怖に煽られる面々。とうとう真犯人が動き出したのです。
人形の数も九体になっていました。しかもあの歌に書かれている通りに殺害されたのです。
そして次の朝にはロジャース夫妻の妻が亡くなってしまいました。
そして人形も残り八体に。。。
一体,誰が犯行を行っているのか。宿泊客の中に真犯人がいるのか。
ここから次々と殺人が起きてしまうのです。
ロンバードは「島のどこかにオーエンがいて,彼が犯行を行っているのではないか」とにらみます。アームストロングとブロアの三人は島中を探し回ります。
その途中,物思いにふけっているマッカーサーと出会います。過去の犯罪を公にされたことに大きな不安を抱えてしまったのか,なにやら様子がおかしいマッカーサー。
そしてとうとう次の事件が。マッカーサーが食事に現れないことに気づいたアームストロングがマッカーサーを探します。
マッカーサーは,後頭部を鈍器のようなもので殴られ,殺害されてしまったのです。そして人形も残り七体となりました7人となり,お互いが信じられなくなっている様子。次は誰が犯人の手にかかるのか。
そんな時,ロジャースが気づきます。浴室の「真紅のカーテン」がなくなっていました。
次はカーテンが関係することが起きるのでしょうか。
いろんなことに気づくロジャースが実は怪しいんじゃないかと思っていましたが,ここで事件が発生します。
ロジャースが殺害されたのです。中庭の近くにある洗濯場で,薪割りに使う斧で背後から攻撃されてしまいました。怪しいと思っていたロジャースがこんな形で殺害されてしまったため,これまで食事を作ったり,宿泊客の身の回りのことをやっていたロジャースの代わりを全員でしなければならなくなります。
残り6人となりました。
いろいろなことが一気に起こって疲れてしまったのか,エミリーだけが食堂に残るといいます。
しかし彼女は人の気配を感じます。誰か食堂の隅に残っているようです。同時に「ブゥーン」という蜂の羽の音も聞こえます。そして首の辺りを刺されたような感覚。
エミリーも亡くなってしまいます。部屋に潜んでいた何者かが毒物を刺した可能性が高いようです。
額縁の「歌」になぞらえるため,蜂の代わりに注射器を使用したというわけですね。これで残り5人。「注射器」が使用されたということで,医師のアームストロングが疑われます。
注射器がないかどうか,アームストロングの持ち物を調べます。ところがあったはずの注射器が無くなっているんです。ん~,何か怪しいですね。。。
そもそも何人かは毒物が使用されてますから,アームストロングが怪しいのもうなづけますよね。
そこで全員は話し合い,凶器になるようなものは一ヶ所にまとめることにします。
アームストロングの持ち物だけでなく,ロンバードが持っていたピストルも。
まとめていれば安心かと思っていました。しかし時間が経って,あることに気が付きます。
隠していたはずのピストルだけがなくなっているのです。
本当に嫌な予感がプンプンします。これからさらに恐ろしいことが起こるのではないか。
ヴェラが部屋に戻ると,彼女は自分の首に何か巻き付いたことで絶叫します。次のターゲットはヴェラか?
と思っていたら,天井からぶら下がっている「海藻」でした。というか,誰がこんなことをしたのでしょう。何か意味があるぞと思いながら読み進めます。
そしてさらなる殺人事件が。。。
ウォーグレイブが頭を撃ち抜かれ,殺害されてしまうのでした。凶器はピストルのようです。しかもロジャースが盗まれたと言っていたあの「真紅のカーテン」に身を包まれていました。これは「歌」の中の「裁判官を目指す」という部分なのでしょうか。ちょっとイマイチ違和感がありました。しかしこれで残り4人となってしまいます。
そして事件は終盤へと向かっていくのでした。
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いよいよ大詰めです。ブロアが部屋の外で何やら怪しい足音を聞きます。音を立てないように後をつけようとするブロア。
邸宅の玄関から何者かが出ていく人影を見ました。真犯人なのでしょうか。
ブロアは生き残っているはずの残りの3人,ロンバード,ヴェラ,アームストロングの部屋をノックします。ロンバードとヴェラはいましたが,アームストロングがいません。
ということは外に出たのはアームストロング? やはりアームストロングか?
3人はアームストロングを探しますが,見つからないんです。
そして邸宅に戻ることにした3人。ここで重大なことが発覚します。ピストルが元の場所に戻されていたのです。
ん? 外に出たアームストロングが犯人なら,わざわざピストルを戻す必要はないわけで,犯人は他にいるのではないかと考えます。少し安堵する3人。
ブロアは昼食を取りに中へ戻ります。その時,大きな地響きのような音が聞こえてきます。慌てて現場に行くロンバードとヴェラ。
そこには熊の形をした大理石の大時計に潰され殺害されたブロアの姿がありました。残り3人。ロンバードとヴェラは外へアームストロングを探しにいきます。やはり彼らはアームストロング犯人説にこだわっているようです。ん~,違うと思うんだけど。。。
すると,とうとうアームストロングが見つかります。彼は海の近くで溺死していました。
「歌」の中で言えば「ニシン」の話でしょうか。
残されたのはロンバードとヴェラ。目の前の人間のみです。お互いが犯人であると確信する2人。
ここでヴェラが隙をついてロンバードのピストルを奪い,ロンバードを撃つのです。残ったのはヴェラだけ。彼女は何かしらの達成感に浸っているようでした。
ヴェラが犯人だったのか。。。。?
それにしても,女性一人でここまで用意周到に,完全に犯罪を犯すことができるものなのか。それだけが僕自身の疑問でした。
ところが最後に意外な展開に。自分の部屋に戻ったヴェラですが,目の前に天井から吊るされた「輪」があったのです。
どういうわけかヴェラはそこに首をかけます。そして亡くなってしまうのです。
「そして誰もいなくなった」
まさにタイトルそのものになってしまいました。こんな終わり方。。。。
いや,何か裏があるだろ。そうなんです,これは終わりではありませんでした。
真犯人は実在したのです。ヴェラではない人間。
ある漁船が「瓶」の中に入っている告白文を発見します。そこには今回の用意周到な事件について書かれていました。
犯人はウォーグレイブでした。あの真紅のカーテンに身を包まれ殺害されたはずの。あれはフェイクだったんです。死んだフリをしていたんですね。つまり,話の後半の4人を殺害したのは全てウォーグレイブの計画どおりというわけです。
では動機は何なのか?
判事であるウォーグレイブは正義感の塊ではありましたが,同時に裁いた人間の死を見ることに快楽を覚えてしまうようになったのです。
10人もの人物を招待したのもウォーグレイブです。彼は今後も決して裁かれない罪深き10人の招待客を殺害する計画を立てたのでした。
しかし彼には仲間,いや共犯者がいました。アームストロングです。
なるほど,毒殺するためにはやはり彼の力が必要ですもんね。
しかし,最後にウォーグレイブは裏切ったのです。
そしてウォーグレイブは最後に本当に自分をピストルで撃ち抜いたのでした。
まさに完全犯罪。告白文がなければ到底解決できなかったのではないでしょうか。
全て読み終えて「そして誰もいなくなった」というタイトルを見つめました。
これを1939年に書き上げたアガサ・クリスティーのすごさに感服します。
冒頭でも描きましたが,やはり綾辻行人先生の「十角館の殺人」と似ていると思うのは僕だけでしょうか。
影響を受けているのかどうかはご本人のコメントを見ていないのでわかりませんが,両方とも「すごい」と唸ってしまう作品であることは間違いありません。
本作家の最大とも言うべき超大作。これ,映像化されているのでしょうか。
されているのであれば是非観てみたいですね。
● 「そして誰もいなくなった」の真相に感服した
● アガサ・クリスティーの他の作品を読みたくなった
● 多くの人が本作品を推す理由がわかった