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【国宝】吉田修一|歌舞伎の世界と役者の半生を描いた作品

任侠の世界からある歌舞伎役者が成長しながら、波乱万丈の人生を送るという物語です。

作者はあの吉田修一さん。

私はかつて「太陽は動かない」「パレード」「ウォーターゲーム」などのアクション系の作品は読んだことがありました。

先日、映画館での上映も始まって話題になったので、私も小説を購入しました。

「こんな作品も描けるんだ・・・すごい・・・」と驚きました。

そして、過去の受賞履歴もすごいです。

本作品で「芸術選奨文部科学大臣賞」を受賞されています。

それ以外にも「山本周五郎賞」「柴田錬三郎賞」そして「芥川賞」まで。

それだけに、今回の『国宝』はとても楽しみ。上下巻と長いですが、それは主人公の生涯を描いているからこその長さだと思います。

歌舞伎という未知の世界を知ることができましたし、表面からは見えない大変さがあるのだなと考えさせられると思います。

是非、読んでみてください!

こんな方にオススメ

● 歌舞伎の世界に興味がある方

● 映画化され、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した作品を読んでみたい

● 主人公の壮絶な人生を知りたい

作品概要

俺たちは踊れる。だからもっと美しい世界に立たせてくれ! 極道と梨園。生い立ちも才能も違う若き二人の役者が、芸の道に青春を捧げていく。芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞をW受賞、作家生活20周年の節目を飾る芸道小説の金字塔。1964年元旦、長崎は老舗料亭「花丸」――侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、この国の宝となる役者は生まれた。男の名は、立花喜久雄。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。舞台は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか? 朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ、著者渾身の大作。
Booksデータベースより-



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主な登場人物

立花喜久雄・・主人公。任侠の世界から歌舞伎の世界へ飛び込んだ

大垣俊介・・・喜久雄ともに歌舞伎の世界で活躍。喜久雄のライバル

福田春江・・・喜久雄の友人だったが、後に俊介の妻となる

大垣幸子・・・半二郎の妻で、俊介の母親

立花権五郎・・喜久雄の父親で、立花組の組長

花井半二郎・・俊介の父で、後に喜久雄と俊介を指導する

小野川万菊・・半二郎の亡き後、喜久雄と俊介を指導

本作品 3つのポイント

1⃣ 歌舞伎の世界へ飛び込む

2⃣ 喜久雄と俊介の関係

3⃣ 人間国宝

歌舞伎の世界へ飛び込む

時代は1964年のオリンピックの年です。

主人公は、長崎の老舗料亭「花丸」で育った立花喜久雄です。喜久雄の父は立花組の組長で権五郎といい、任侠の世界では有名でした。ただ、常に他の組との抗争は絶えず起こっていました。

その年の正月の雪が積もる日、立花組は毎年恒例の宴会を行っていました。そこには花井半二郎という歌舞伎役者も同席しています。

宴会の舞台では、組の者が歌舞伎を演じています。演じているの一人が喜久雄でした。喜久雄は歌舞伎役者ではありませんでしたが、恒例行事だったようですね。

ところが、その宴会の途中で、ある組が押し入ってきます。それは敵対していた宮地組、かと思われました。。いきなり襲撃された立花組は完全に無防備です。相手は刀を携え、彼らに襲いかかるのです。

立花組の人間は、組長である権五郎を守ろうとします。そして権五郎も上の階へ逃げていきます。権五郎は最後まで反撃しますが、何せ多勢に無勢です。

ここで思わぬ人物が現れます。それが辻村という男です。彼は立花組を裏切り、愛好会の若頭になっていました。

権五郎は彼の企みにより、最後は命を絶たれてしまうのです。

そして残されたのが喜久雄でした。彼は突然父を失い、途方に暮れてしまいます。さらに喜久雄はその後、母も失くします。

この時の喜久雄はどんな気持ちだったのでしょうか。想像を絶する思いです。

しかしある日、喜久雄の前に花井半二郎が現れます。そう、あの宴会の時に喜久雄の歌舞伎「芸」を観ていた人物です。大阪の歌舞伎役者である、二代目花井半次郎だったのです。

半二郎は喜久雄の素質を見込んだのでしょうか。彼は、孤児同然となった喜久雄を引き取ったのです。

ただ半次郎には、俊介という息子がいました。最初は俊介と喜久雄はお互いの価値観の違いでケンカしたりしていました。それでも喜久雄を弟子として迎え入れるのです。

そして、彼らは歌舞伎役者として、お互いライバルとして切磋琢磨しながら成長していくのです。

喜久雄と俊介の関係

喜久雄は、歌舞伎への興味、そして努力を惜しまぬストイックな性格で少しずつ成長していきます。特に女形としての才能があり、舞台に立つだけで観客を魅了するような存在となっていくのです。

半次郎の息子である俊介もまた素晴らしい演技で、役者としての道を歩んでおり、お客さんを魅了します。二人の間には次第に友情も芽生えますが、同時にライバルして成長するのです。

俊介は自分の正統な家系という誇りを持ち、喜久雄は俊介の家系とは関係ないですが、圧倒的な才能を披露します。

ただ、ここで少しずつ二人の間に溝が出てくるのを感じます。

喜久雄は女形として天才的な才能を発揮し、さらに観客や業界の注目を一身に集める存在となっていきます。俊介にとって喜久雄は兄弟のような存在でありがらも、常に比較される相手でもありました。

次第に俊介は喜久雄に嫉妬しているように思いました。誰よりも俊介自身がそれを感じているのです。これはとてもつらいですよね。たとえ実力主義の世界とはいえ、父親としてはやはり息子に跡を継がせたいと思うような気がします。

半二郎の思いは、息子である俊介への叱咤激励だったのかもしれない。喜久雄を超えてほしいという願い。しかし、半二郎は二代目「花井半二郎」は喜久雄に襲名する決断をするのです。

えっ? なんで? という感じです。

俊介は気丈に振舞いながらも、内心、嫉妬心でいっぱいだったと思うし、卑屈になっているようでした。そしてある日、花井家から俊介は出て行ってしまうのです。しかも、喜久雄と親しかったはずの春江を連れてです。

これには喜久雄も複雑な思いだったでしょう。ある意味「外部」だった自分が、俊介を追い出した格好になってしまったのですから。春江が一緒だったというのも重ねてショックだったと思います。

俊介の気持ちはどうでしょうか。半二郎の息子というプレッシャーもあったのでないのか。自分自身の芸と人生を築くためでもあったのかもしれません。彼の失踪は謎のままとなるのです。

しかし、読者は「きっといつか、俊介はすごい役者になってもどってくるのではないか」と想像をかき立てられるのです。

人間国宝

※ネタバレを含みますので,見たい方だけクリックしてください!

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喜久雄はこれから花井半二郎を襲名して、活躍が期待されました。しかし、そんなに簡単にはいきませんでした。

その襲名の披露の際、それまで「花井半二郎」が「花井白虎」へと襲名する舞台で、半二郎は倒れてしまうのです。

そして、半二郎は亡くなってしまいました。喜久雄はまた唖然とするのです。かつては父親を失い、さらにはここでも師匠をも失うのですから。

喜久雄はここで別のところに引き取られます。主役ではなく、脇役ばかり演じさせられてしまいます。歌舞伎の仕事がなくなってきた喜久雄は、やむなく映画に挑戦します。

しかし、その撮影現場では壮絶なイジメに遭ってしまいます。これだけの壮絶ないじめを受ければ「もういなくなりたい」と思うのではないか。

でも喜久雄はここでとてつもない忍耐力を出します。正直、この精神力に脱帽という感じです。

そしてある日、離れ離れになっていた喜久雄と俊介に運命の再会が訪れます。喜久雄の関係者がある舞台で「すごい役者」の演技を観てしまいます。実は彼こそが俊介でした。彼はやはり歌舞伎を続けていたのです。しかも、恐ろしいほどの実力をつけて。

俊介は喜久雄にも劣らない評価を得て「日本芸術院賞」を受賞するほどの実力者になっていきます。いろいろなスポーツ系の漫画とかでも、同じようにライバルがすごい実力をつけて再会するというシーンをみてきました。それは歌舞伎の世界でもあるんですね。

読みながら、人は挫折を味わって立ち上がった時、大きく成長するのだと改めて気づかされるのです。

そして二人は小野川万菊という歌舞伎役者の元で、以前のように活躍していくのです。読みながら「良かった」という気持ちと「また何か起こるのではないか」という嫌な予感がします。その嫌な予感が的中します。

俊介には異変が起こり始めていました。舞台で足元がふらつきます。どうやら俊介の足は「壊死」していたのです。そして片足を切断することになりました。これでは舞台に上がることができないと思われましたが、俊介は義足を付け、必死で舞台に立ちます。

ここだけでも辛くなってしまうんですが、さらに俊介を悪夢が襲います。もう片方の足も壊死してしまったのです。両足を切断することになり、もう俊介の気持ちも限界となってしまいます。

そして喜久雄は盟友でライバルでもあった俊介は亡くなってしまうのです。

ライバルがいなくなった喜久雄はここまでなのか、とも思いました。しかし喜久雄はさらに歌舞伎に磨きをかけようとするのです。まるで、俊介の代わりも生きるように。この精神力はなんなのでしょうか。覚悟の決め方とか、まるで本当の父親を見ているようです。

俊介は亡くなりましたが、何か父親の跡を追うようにも見えます。家系とは遺伝とか、人には見えない何かを受け継いでいるものなのでしょうか。

しかし、年齢を重ねるにつれ、喜久雄にも変化があらわれます。演技の途中に、ふと天井を見上げたりすることがあります。さらには、楽屋に一人でいるのに、誰かと話している声がしたり。人には見えない何かが、喜久雄には見えているような感じなのです。

何かを突き詰めていくと悟りを開いたようになると言いますが、それに近いものなのでしょうか。そして喜久雄はこれまでの歌舞伎役者としての功績が認められ「人間国宝」と認定されるのです。

なるほど、これが国宝の意味だったのか。。。

そして、とうとう喜久雄にも最期が訪れます。ある舞台で演じている途中でした。
また、ふと何かを追うように外へ歩き始めるのです。お客のいる前で、そして家族や親しい人たちへ向け「これが俺の生きざまだ」と言わんばかりに。

外は銀座の交差点です。辺りは車のクラクションが鳴り響くのです。

映画は観ていませんが、小説の最後は一体どういう意味があるのか、とても興味がありました。映画でどのように描かれていたかは、映画を観た人に聞いてみようと思います。

立花喜久雄の生涯を描いた本作品。本当に衝撃でした。歌舞伎役者というものがどんな思いで生きているのか、というのもわかりました。二人の役者を中心に、時折、歌舞伎の舞台や流れていく歌が本作品には書かれています。私は歌舞伎を知らない人間ですが、鮮明なイメージが伝わってきました。

それにしても、この作品を描いた吉田先生には感服しました。文章表現にもとても悩まれたと思います。

普通、自分の知らない世界を描いている小説を読む時、結構時間がかかるもんです。だって、イメージがなかなか湧かないから。わからない言葉も読み手にわかりやすいように、しっかり説明を入れながら書かれていました。

そして最後の「参考文献」もすごかったです。たくさん文献が書いてあったので数えてみました。何と138冊でした。138冊ですよ。そんな小説、見たことない!

どれだけの想いでこの作品を書き上げたのか、想像を絶します。
機会があったら映像化されたものも観てみたいと思います

この作品で考えさせられたこと

● 歌舞伎の世界の厳しさを知ることができた

● 人生のヒントになることがたくさん詰まっていました

● 「国宝」という意味を理解することができた

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